妖怪「黒坊主」の伝承・正体・名前の由来

黒坊主(月岡芳年画)

 

黒坊主は夜になると現れ、人の寝息を吸い、口をなめる真っ黒い体の妖怪です。そのにおいは病気になってしまうほどの悪臭だといわれています。当記事では黒坊主について、伝承・正体・名前の由来などに焦点を当て、詳細に解説していきます。

 

 

黒坊主の伝承

日本各地に黒坊主の伝承があります。明治時代、東京神田にある民家に黒坊主がやってきたという話が残っています。夜になると寝室に現れ、眠っている女性の寝息を吸い、頬や口を舐め回したといいます。

 

舐められたあとは、病気になってしまうほどの生臭さで、耐えられなくなった女性が親戚の家にしばらく避難したところ、いつのまにか黒坊主も現れなくなったといわれています。

 

和歌山県の伝承

和歌山県の熊野地域に伝わる伝説では、山の中で人を襲う漆黒の生物が「黒坊主」と称されていました。この生物に遭遇した人々の話によれば、黒坊主は驚異的に身長が3倍に伸び、銃撃を受けるたびにさらに巨大化し、黒くて大きな姿に変貌しました。そして、まるで飛ぶかのように迅速に逃走したとされています。

 

背丈が伸びたことから、妖怪「高坊主」の一種ともいわれています。高坊主は、主に四国や近畿地方に伝わる妖怪で、タヌキが化けたものとされています。

 

三洲奇談での伝承

江戸時代に加賀・能登・越中(現在の石川県、富山県)の不思議な話をまとめた「三洲奇談」にも、黒坊主についての昔話が書かれています。石川県の能美市にある長田川近くの伝説では、形の区別がつかないほどの黒坊主が出現し、身体が伸びる様子が語られています。この不思議な存在は、人々が杖で突くと川方向へと逃走したと伝えられています。地元の話によると、この謎めいた黒坊主は実はカワウソが変身した姿だと考えられています。

 

黒坊主の正体

東京神田に現れた黒坊主の正体は不明で、姿は黒い坊主姿、または人の目にははっきりとは見えない口だけの黒い姿だといわれています。その姿からのっぺらぼうの一種とする説もあります。

 

熊野の七川で目撃された黒坊主はタヌキ、「三洲奇談」に登場する黒坊主はカワウソが化けたものとされています。カワウソは、キツネやタヌキと同じように人を化かす伝承が多くあり、子どもや美しい女性に化けて人をだますといわれている動物です。

 

黒坊主の名前の由来

名前の由来は不明ですが、黒坊主という呼び名は全国各地で広く使われています。大入道(おおにゅうどう)や海坊主など、黒い姿の妖怪を黒坊主と呼ぶこともあります。

 

黒坊主のまとめ

以上、妖怪黒坊主について解説させていただきました。

 

一般的に妖怪が現れる場所は妖怪によって決まっているといわれていますが、黒坊主は東京では家に、熊野の七川では山に、石川県では川に現れました。正体不明の黒い姿の妖怪を総称して黒坊主と呼ばれているようです。

 

なお黒坊主はゲゲゲの鬼太郎にも登場します。黒ヒョウに似た頭に、マントのような服を着て、生き物の生気を吸って生きる霧のような姿で描かれています。興味がある方はぜひチェックしてみてください!