「雨女」(鳥山石燕『今昔百鬼拾遺』より)
皆さんのまわりに「みんなで出かけるときや何か行事があるときに、この人が来ると必ずお天気が良くなる」という人はいませんか?そういう人のことを世間では「晴れ男」「晴れ女」と呼び、逆に「この人が来ると必ず雨が降る」という人は「雨男」「雨女」と呼ばれますよね。
しかしこの記事で紹介する「雨女」は、そういう「雨を呼ぶジンクスを持っている女性」とは全く違う、日本の伝承に残るれっきとした妖怪です。以下で雨女の正体・伝承・名前の由来などについて、詳しく解説していきます。
「雨女」とは、産んだばかりの赤ん坊が雨の日に神隠しに遭い、悲しんだ母親が子供を探し続けて妖怪となったものです。雨女の話は、オカルト研究家として有名な山口敏太郎氏の著書『本当にいる日本の「現代妖怪」図鑑』にも記述されています。
長野県伊那地方では、雨の降る夜に現れる「雨おんば」という妖怪の話があります。「泣いている子供がいると雨おんばが大きな袋をかついで現れる」と言われ、人さらいとして恐れられてきました。
日本で最初に雨女が登場するのは1781年刊行の鳥山石燕(とりやませきえん)の妖怪画集『今昔百鬼拾遺』(こんじゃくひゃっきしゅうい)です。しかし、こちらの雨女は男女の秘密の恋を示す故事成語にちなんだもので、妖怪というよりも、吉原の遊郭を風刺した絵だと考えられます。
雨女の正体は、長野県を流れる天竜川の災害と深い関係があるようです。
伊那地方では、山間の川沿いに集落がありました。そのため、長年にわたって大雨や洪水の被害に悩まされてきました。伊那谷の水害は川沿いの低地はもちろん、高台から山すそまで、あらゆる場所に水と土砂があふれる恐ろしい土砂災害です。
集落の人々はこの災害を鎮めるために、神に供える生贄(いけにえ)、つまり人柱をたてました。人柱に選ばれるのは若い女性が多かったため「大雨が降ると人柱にされた女性が化けて出る」と噂されるようになったのです。それが「雨女」や「雨おんば」の正体と考えられています。
また一説には、もともと雨の日に現れる神であったものが堕落して妖怪になった、とも言われています。
恐ろしい人さらいの妖怪、というイメージが強い雨女ですが、一方で干ばつの際に雨を降らせてくれる雨神とも言われています。雨女の名前の由来は「雨の日に現れる女」「雨を降らせて人々を助けてくれる女」の両方の意味があるようです。
今回は妖怪「雨女」について解説させていただきました。
雨女の概念は時代とともに変化して、現在の「雨男」「雨女」といった使われ方になったようです。近年では、妖怪「雨女」は「妖怪ウォッチ」などのアニメにも登場しています。興味のある方はそちらもチェックしてみてくださいね。