すねこすりは夜道に人の足の間をこすりながら歩いて邪魔をする妖怪で、岡山県を中心に目撃記録が残っています。そんなすねこすりについて、伝承・正体・名前の由来など解説していきます。
すねこすりは夜道を行く人々の足元に現れると言われています。言い伝えによると、夏の夜に子供たちが家の縁側で涼を取っていた時、突如として足元に違和感を覚えました。
子供たちは何かが足をまとわりつくのを感じ、下を見ると子犬のような愛らしい姿が。子供たちがその生き物を捕まえようと試みるも、すねこすりは巧みに足の間をすり抜け、遊んでいるかのように子供たちから離れていきました。
子供たちが追いかけるものの、いつの間にか見失い、気がつけば自分たちがいたのは墓地の近くにいたのです。
他地域の「すねこすり」の伝承
また岡山県井原市では夜間にすねこすりが現れるという伝承が多く残っており、市内にある辻堂周辺では、通行人の足元をするりと通り抜ける姿が目撃されています。
県内の他の地域では、夜道で人の脛(すね)をこすりながら通り抜ける「脛こすり」、股を何度もくぐり抜ける「股くぐり」といった伝承も残っています。さらに、夜道を歩く人を転ばせる「すねっころがし」という妖怪も岡山県後月郡芳井町(現・井原市)に伝わっており、すねこすりの特徴は地域によって異なっているようです。
地域によって多少の違いはあるものの、「夜道で足元に現れる妖怪」という基本的な特性は共通していることが分かります。加えて子供たちをあざ笑うようなふるまいや、犬のような外見、そして人を困らせるという性質も、多くの地域で語り継がれてきたすねこすりの特徴と言えるでしょう。
すねこすりの正体は、犬説と猫説という二つの異なる見解が存在しています。
先で解説した通り、岡山県ではすねこすりは子犬のような姿をした妖怪として伝えられてきました。しかし、ゲゲゲの鬼太郎などで有名な漫画家・水木しげる氏が描いたすねこすりは猫顔をしており、近年では「すねこすりは猫である」という説が広まりつつあります。
一方で、岡山県の有漢町(現・高梁市)では、すねこすりが狸の仕業だという伝承も存在します。
地域によって伝承の内容は様々ですが、つるべ落としは人を驚かせたり、時に命を奪ったり害を及ぼす妖怪として恐れられていることがわかります。
すねこすりの名前の由来は、明確に分かっていません。しかし、日本の妖怪たちの名前はしばしばその習性や特徴に由来することから、すねこすりの名前もまた、その行動から取られたと考えられます。
例えば「あずき洗い」という妖怪は、その名の通り夜な夜な川で小豆を洗うことから、その名がつきました。
また、使用され古びた白い雑巾が化けたという「白うねり」、家に忍び込み天井を舐めることから名づけられた「天井嘗(てんじょうなめ)」など、妖怪の名前にはその振る舞いや特徴を反映する例が多々見られます。
このように、すねこすりの名前は他の妖怪と同様に、人間の足をこすりながら移動する姿から来ていると考えられます。
夜な夜な現れる妖怪すねこすりは、その名の通り人の足元にちょっかいを出す不思議な存在です。もし夜道で子犬か猫があなたの足をこすりながら横切ったのなら、それはすねこすりかもしれません。